ニュースでは盛んに桜前線の情報が伝えられ世間は花見一色の今日この頃ですが我々釣り人、特にネイティブトラウトアングラーにとっては桜ならぬサクラマス、サツキマスの遡上前線が気になる時期。
と言うことでしばらくぶりの釣行記は三重県は伊勢市を流れる宮川でのサツキマス釣行。
三月、啓蟄を迎え春の陽気が虫達を眠りから目覚めさせる頃それにつられる様に水中、特に淡水の魚達の動きも慌ただしくなる。
河川の中、上流の水面では水性昆虫の羽化が始まり解禁を迎えた渓魚達がそれらを補食する為動きだし河川の最下流域では大海原へと旅立った渓魚の一団が産まれた川への遡上の為集まり始める。
当然ながらそんな彼等を狙うネイティブトラウトアングラーも一斉に浮き足立つ。
多分に漏れず自分もそんな一人。
普段は海を中心に魚を追いかけていて生粋の鱒人と言うわけはないがやはりこの季節には狙わずにはいられなくなる特別なターゲット。
サツキマスやサクラマスと言った遡上魚には他には代えがたい魅力がある。
シーズンイン初の釣行場所に選んだのは三重県を代表する一級河川、宮川。
日本一の雨量を誇る大台ヶ原に端を発し日本三大渓谷に数えられる大杉谷を形作り伊勢神宮を擁する伊勢市に流れ出る河川延長91kmものその流れは水質に置いても過去日本一に選ばれアマゴやアユだけでなくレッドデータブックに記載されている数多くの希少な魚種の揺り籠になっているが反面、雨量の豊富な山々に端を発するが故に暴れ川としても有名で旧宮川村における台風の土石流災害は記憶に新しく流域に宮川ダム、三瀬谷ダム他数多くのダムを持ち
川と海を往来する遡上魚を育む環境としては些か厳しいものがあるのも事実でサツキマスの遡上量は長良川等の有名河川とは比べるべくもないのが現状だ。
それでも数少ないながらも毎年のように遡上する彼等を狙いにこの時期になると訪れている河川の1つ。
今年はどうだろうか。
期待に胸を膨らませ足を運んだのは河川最下流域の汽水エリア。
シーズン初期の遡上魚が淡水に体を馴染ませる為に足を止めるであろう場所でこの時期同じく遡上を開始する稚鮎の群れも溜まる好ポイント。
遡上開始まもない遡上魚は食性がまだ降海中の頃の影響を強く残している為、魚食性が強く居れば盛んに稚鮎等の稚魚を追いかけてライズしている事が多くルアーを目の前にアプローチさえ出来れば比較的簡単に口を使わせる事が出来る。
はやる気持ちを抑えながら夜明け直後の朝霧が立ち上がる水面を注視しライズを探すが残念ながらそれらしき波紋は見つけられず川はただ雄大な流れを見せるのみ。
遡上タイミングを読み間違えたかと不安がよぎらせながらせめて稚鮎の群れの存在を感じさせる波紋でもあればと引き続き水面を注視しながら万が一遠くでライズが発生しても対応できるジグスプーンのシーミッション18gでアプローチ。
対岸の護岸に沿って流れる太い流れとそのブレイクラインをキャスト毎にコースを変えながら丁寧に探って行く。
すると大きくダウンストリームにアプローチしたルアーが流芯を抜けブレイクに差し掛かった辺りで「グンッ」とリーリングを止めるかのようなバイト。
久々のサツキマス釣行でのバイトでフッキングが遅れたのが悪かったのか一瞬ロッドにかかった重みはグネグネとした独特の感触を残して軽くなってしまった。
痛恨のフックオフ。
姿を見ていないとは言え恐らく貴重なサツキマスのバイト。
勿論ウグイと言う可能性も無いことは無いがあのグネグネとした体を捻るように抵抗する独特のファイトはサツキの可能性が高い。
やってしまったと言う焦りと後悔の念に囚われながらも反面、魚が入っていると言う事実と口を使わせたと言う結果が手を震わせ頬を緩ませる。
どうしようもない釣り人の性か、はたまた遡上魚と言う特別なターゲットがそうさせるのか釣り上げてもいないのにもかかわらずアドレナリンが湧き上がり止まらない。
早まる鼓動を抑えながら先程と同じコースを再アプローチ。
一度針がかりさせてしまった魚がまた食って来る事は無いと分かっていながらももう一度同じコースを通してしまうのもまた釣り人の性と言うもの。
案の定ラインからはルアーが体を振る感触が返ってくるのみで沈黙。
少なからず複数匹同じ位置に入っていて他の魚が口を使って来ることに期待していたのだが残念。
気持ちを切り替えまたも水面を注視しながら少しずつ釣り下り目星をつけていたテトラが崩れて流れに変化が出来ている場所へ。
既に水面から立ちこめていた朝霧は晴れ朝焼けの太陽が水面を輝かせはじめた時間帯。
出来ればシュガーディープ等のディープミノーでアプローチしたいポイントだがブレイクが近くなるべくウェーディングしたくない水位の為断念。
引き続き先程バイトがあったシーミッションで崩れて流れがよれているテトラ際を掠めるようにコース取りしアプローチする。
ダウンストリーム気味にキャストしたルアーが流れに逆らって泳ぎテトラの際を通過した瞬間バランスを崩し踊るように身悶えする。
理想のようなバイトシーン。
だが事サツキマスに限っては意外とそう思うようなバイトはしてこない事が多い。
鬼のような連続トゥイッチに狂うようにチェイスしてくる事はあれどあからさまな間を加えた動きにはどうも見切られる節がある。
一瞬バランスを崩したルアーが再び一定のリズムを刻みながら泳ぐ様をロッドで感じながら速度を落とさず丁寧にリーリングしてくると流芯を抜けきる手前で「グッ」とリーリングを止めるようなバイト。
今度はすかさずリーリングの手を止めずに巻き合せを入れて逃がさない。
グネグネとした抵抗を見せ重さは無いが時折スピードのある突っこみで逃げようとする魚。
水面に映る銀鱗を輝かせ抵抗する姿はまさしくサツキマス。
口が裂けやすくバレる可能性の高い魚だけあって高鳴る鼓動を抑えつつドラグを緩めテンションを保ち丁寧にネットへ誘導しランディング。
サイズは小さいがそれでも汽水域で捕った今年最初の一匹。
サツキマスと呼ぶには小ぶりで細く長良川で言うところのサボリと言ったような風体だがまばゆい銀鱗を纏った姿はやはり美しい。
何度釣っても衰えない感動を与えてくれる魚体に見とれ1年ぶりの再会に感慨深く浸っていると視界の彼方の水面に波紋が。
目を凝らし確認すると太陽の光で動き出したのか水面に引き波を立てながら移動するベイトの群れが現れその進行方向の後ろにライズで出来たような波紋が余韻を残している。
逃すべくもないチャンスの到来。
直ぐさま釣り上げたサツキをストリンガーにつなぎ警戒心を与えないように群れのかなり後方へキャストし横切らせるようにアプローチしてくる。
緊張の一投目、理想通りにキャストが決まりベイトを追い立てるように群れの斜め後方からルアーを横切らせるがサツキからの反応は返ってこない。
二投目、今度はベイトの行く手を阻むかのように真横にルアーを横切らせてくる。
一瞬進行方向を塞がれ驚き逃げ惑うベイトの姿が目に映るがルアーは何事もなかったかのように一定のリズムを刻み戻ってくる。
三投目、仮に一匹のサツキがあのベイトの群れに着いているのならそろそろルアーにスレて口を使わなくなる頃合。
この一投で何とか口を使わせたい。
立ち位置を変えしっかりと狙いを定め再度群れの斜め後方へキャスト。
今度は少しカウントを加え群れの下を横切らせる。
ルアーが群れの中を通過するとまたもベイトが驚き水面に出来たポツポツとした波紋が一瞬途切れ消えるのを確認しながらリズムを崩さないように集中しリールを巻いてくる。
落ち着きを取り戻した稚魚が再び水面に波紋を形作りはじめたのを遠目にそろそろ手前に目視出来るはずのルアーを探していると一瞬水中にギランと輝きを放つ銀鱗が。
その手前に目をやるとゆらゆらと明滅を繰り返しながら戻って来ているシーミッションの姿。
ルアーの後ろを右へ左へ蛇行しながら追尾してくる先程よりも大きいサツキの姿に鼓動が高鳴るがルアーが足下に返ってくるまでもういくらもない。
一瞬食わせのタイミングを入れるか・・と逡巡する自分を抑えつけ一定の速度を保ち巻き続ける。
毎シーズンの事ながら食え!食え!と念じながら過ぎる緊張の時間。
足下まで後2メートル程、手前のブレイクラインを完全に超えた辺りで遂にその時は訪れた。
蛇行しながらピッタリとルアーの後ろを追尾していたサツキが身をくねらした刹那リーリングしていたハンドルに重みが伝わる。
待望のヒット。
何とか口を使わせる事が出来たことに思わず声を上げてしまいながらも巻き合せを入れグネグネと身体を踊らせ抵抗するサツキをバラさないようにテンションを保ちつつ寄せ一気にランディング。
ネットの中で美しい銀鱗を輝かせ暴れる明らかに先程の一匹よりも太く大きいサツキマスの姿に安堵し一気に緊張の糸が解かれる。
一匹目よりも良型の32㎝。
この一匹もサツキマスと呼ぶには迫力に欠ける大きさと言えばそうなのだがそれでも今シーズン初釣行での2匹目、しかもサイズアップとは嬉しい限り。
子供のように興奮と悦びに心を震わせながら飽きもせず横たわる銀鱗を眺めているとそんな自分を現実に戻すかのように時間を知らせるスマホのアラーム音が。
残念ながらタイムアップのお知らせ。
サイズこそ小さかったものの朝マズメのみ、しかもシーズン初期の汽水域での釣行にしては上出来な釣果に満足しつつストップフィッシングとした。